1998年4月2日木曜日

資本ストックの調整が景気回復の鍵に

たしかに最近の景気は惨憺たるものだが、不況脱出のために何をすればよいのか、なぜかなかなかコンセンサスが出来上がらない。網羅的な「総合経済政策」は何度も立案されるのだが、あまり評価されず、皮肉にも政治家がそれを云々する度に逆に株価が下がる。

分析が足らないわけではない。日本経済についてはすでに膨大な分析がなされており、多くの問題点が指摘されている。バブルの崩壊が資産デフレをもたらし、それが金融システムの破綻につながったこと、背景には日本経済の規制体質があり、それから脱却しグローバルスタンダードに対応するためには規制緩和と競争原理の導入が必要である云々。一々もっともであるが、それらの問題意識に基づいた経済の体質改善を狙う「政治的に正しい」構造政策は、インフルエンザの患者に漢方薬を処方するのに似て(理屈では正しい処方であるとしても)、患者はなかなか楽にならない。むしろ患部に直接きく「対症療法」のほうが望まれている。

いま実体経済が直面する問題とはデフレギャップである。需要が少なすぎるのだが、むしろ供給が需要に比べて多すぎる、すなわち設備過剰問題だと考えればよい。

これは米国経済と比較してみるとよくわかる。日本の設備投資比率(民間設備投資/GDP)はおおむね15~20%、一方米国は10%程度にすぎない。また日本の資本係数(民間設備ストック/GDP)は1.2であるが、米国は1.1であり日本は米国に比べ約10%大きい。この過剰設備が、バブル崩壊にともなう期待成長率の低下を契機に一挙に表面化し、アジアにおける過剰投資も加わり、日本経済に大きなデフレ圧力をもたらし、さまざまな歪みとなって現れているのだ。

よって景気対策の基本は、あくまでも需要の拡大と供給の削減にあるべきである。ただ需要を拡大させる場合でもそれが供給の拡大に結び付かないように注意しなければならない。つまり設備投資比率が変わらないとすると、総需要の拡大政策が採られても、必ずその一定割合が民間設備投資にまわり、それが供給力を拡大させ、逆にデフレギャップが広がってしまうこともありうる。また競争を通じての過剰設備の解消を狙うにせよ、過去に過当競争が常に過剰設備問題をもたらしてきた事実や、敗者をなかなか決定させない日本の社会風土を考えると、競争が結果的に経済全体の供給力を増加させる可能性があることも留意すべきだろう。

そう考えると需要の創出よりも供給の削減、過剰設備の除却がむしろ効果的かもしれない。いま民間企業が進めている「経営資源の戦略的配分」とはこの動きに他ならない。これをもっと広く国民経済ベースで進めなければならない。必要なのは経済のノンコア部分を勇気を持って整理する政治の指導力である。
ともあれ、日本の資本係数を米国並にするには、全体で資本ストックを50兆円程度減らす必要がある。それを5年で調整するとすれば、毎年10兆円づつ設備投資を抑えることになる。こうなると景気の早期回復は難しいと考えざるを得ない。でもその間を堪え忍び、スリム化に本当に成功すれば、21世紀の日本経済は再び天下無敵となるだろう。

(橋本)